【博士論文】農村に住むことが自殺に与える影響とそのメカニズムの検討:出身国に着目したスウェーデンのレジストリ・データを用いた縦断研究

論文

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概要

本博士論文は、スウェーデンにおける都市と農村の自殺率の違いを出身国別に明らかにし、さらにそのメカニズムに踏み込んだものである。スウェーデン・ストックホルム大学のThe Studies of Migration and Social Determinants of Healthプロジェクトチームと国際共同研究を実施し、スウェーデン国内の限られた施設でのみアクセス可能な貴重なレジストリ・データベースを用いて分析を行った。

様々な国で都市より農村において自殺率が高いことが報告されている。農村部/都市部で異なる社会環境要因が自殺に関係している可能性があるが、そのメカニズムについて調べた研究は限られている。移民・難民の受け入れが増加しているスウェーデンでは、都市部の人口集中を防ぐため、難民が農村部に定住するよう推進する分散政策が実施されている。そこで本研究では、スウェーデンにおける都市—農村の自殺率格差を、居住者の出生国、農村度の評価に用いる地理単位、社会・人口学的要因との関連という3つの観点から解明することを目的とした。

スウェーデンのレジストリ・データを用いて、20歳以上の全国民を対象としたコホート研究を行った。「農村」という複雑な概念を紐解くために、2種類の地理単位で農村度を評価した。最小の政治単位としての市町村レベル、市町村内の小地区として近隣レベルを用いた。個人・近隣・市町村の階層構造を考慮した3レベルのマルチレベル分析を行い、自殺の発生頻度の地域差とその差を説明する社会環境要因を調べた。

その結果、農村に住む男性は都市より自殺率が高い傾向があり、その傾向は外国出身者において自国出身者より顕著であった。市町村レベルで農村性を評価した場合、スウェーデン出身者を含むヨーロッパ諸国出身男性において、農村に住むことによる自殺リスクの増加が観察された。近隣レベルで農村性を評価した場合、すべての出身国グループ、特に非ヨーロッパ諸国出身男性において、農村に住むことは自殺リスクの増加と関連していた。教育歴・就業状態・所得・婚姻状況といった個人の社会・人口学的特性は、市町村レベルの都市と農村の自殺率格差の多くを説明したが、近隣レベルではほとんど説明されなかった。

これらの結果から、自国生まれの人よりも外国生まれの人において、より農村部の社会環境の影響を受けている可能性が示唆された。農村部の市町村では、スウェーデン出身者や労働移民の多いヨーロッパ出身者における、経済的資源や雇用機会の少なさが自殺リスクに関係している可能性が示唆された。一方市町村内の小さい農村コミュニティでは、外国出身者等に対する差別や偏見、孤立等が自殺リスクの増加につながっている可能性が考えられた。

本研究の成果の一部は、社会と健康の関係を追及する分野のトップジャーナルであるSocial Science & Medicine誌や人口学分野の学際的な国際学術誌Population, Space and Placeに掲載された。

農村度と自殺の関連において農村度を評価する地理単位に着目したことは世界初の試みであり、学術的な貢献のみならず世界各国の自殺予防対策を推進するうえで重要な知見を提供した。また、農村に住む移民の自殺に焦点を当てた研究はオーストラリアの1990年代の報告に限られており、近年移民・難民が増加している中、世界に先駆けたエビデンスを提供した。


※「農村」の定義について
本スライドでは「rural area」を「農村」と訳していますが、農業などの産業構造は分析では考慮されていません。人口が比較的集中している地域を「都市」、それに対して人口が比較的集中していない地域を「農村」と呼んでいるイメージです。「いなか」という言葉のほうが感覚が近いかもしれません。詳細は論文の本文をご参照ください。

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