【論文出版】過去25年間の農村度別・出身国別の自殺率の傾向

論文

スウェーデン・ストックホルム大学との共同研究の成果をまとめた論文が、Population, Space and Placeにて出版されました。人口学分野の国際学術雑誌です。

Kanamori M., Kondo N., Juárez S. P., Cederström A., Stickley A., Rostila M. (2022). Does increased migration affect the rural–urban divide in suicide? A register-based repeated cohort study in Sweden from 1991 to 2015. Popul Space Place, 28: e2503. https://doi.org/10.1002/psp.2503


スウェーデンにおいて、過去25年間、都市より農村において男性自殺率が高い傾向にありました。都市・農村ともに、自殺率は徐々に低下傾向にありましたが、小さい農村コミュニティに住む移民では、自殺率が高まっていた時期があったことが観察されました。また、このような都市と農村の自殺率の違いに、地域要因がどのように関連しているか検討したところ、農村で自殺率が高い背景には、失業率や低所得者割合が関与していることが示唆されました。

背景

スウェーデンには海外から多くの移民を受け入れてきた歴史がありますが、近年では、中でも非ヨーロッパ諸国出身の難民の占める割合が顕著です。多くの移民を受け入れるにあたり、都市部に人口が集中しすぎないように、難民を農村へ分散する政策がとられてきました。こういった経緯を踏まえ、本研究は、移民の増加が都市ー農村の自殺率の格差に影響を与えてきたかに着目しました。スウェーデン全国民を含むレジストリーデータを分析して、都市-農村の自殺率格差が、1990年ー2015年においてどのように変化してきたかを見ました。

対象と方法

スウェーデン全国民を含むレジストリデータを用い、20歳以上のスウェーデン全人口を対象とした疫学コホート研究を行いました。1991年、1996年、2001年、2006年、2011年をベースラインに設定し、それぞれ5年間追跡調査しました(1995年、2000年、2005年、2010年、2015年まで)。個人・近隣・市町村の階層構造を考慮した3レベルのマルチレベルモデルを用い、自殺の発生頻度の地域差を評価しました。

自殺率の都市農村格差を明らかにするだけでなく、そのメカニズムについて考察できるように、以下の工夫を行いました。

① 農村度を2つの異なる地理単位(市町村・近隣)で評価
農村と一口に言っても、どの地域単位で考えるかによって様々です。例えば日本なら、東京より北海道は農村かもしれませんが、北海道の中でも札幌と別海町は異なります。そのため、今回の研究では、「市町村」と、さらにそれより小さい「近隣」という2種類の異なる地理単位を用いて、農村度を評価しました。

② 地域の社会・人口学的要因(外国出身者の割合 失業者割合、低所得者割合)との関連を評価
地域の社会経済状況や、移民の密度は、自殺率に関連しうる要因です。今回の研究では、都市・農村の自殺率の違いが、このような地域要因でどの程度説明されるか、追加分析を行いました。

結果

スウェーデン出身を含む全ての出身国の男性において、過去25年間、都市より農村において自殺率が高い傾向にありました(図)。都市部でも農村部でも、自殺率は徐々に低下傾向にありましたが、小さい農村コミュニティに住む移民では、自殺率が高まっていた時期がありました(図:緑色の矢印)。このような傾向は、難民が多く含まれる、非ヨーロッパ出身者において顕著でした。

女性では、全体的に農村より都市において自殺率が高い傾向が見られました。都市部では概してすべての出身国グループの自殺率が低下していましたが、農村部ではあまりそのような傾向は見られませんでした。

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農村度を市町村レベルで評価した場合、都市と農村の自殺率の違いには、失業者割合が関連していました。一方、農村度を市町村より小さい近隣レベルで評価した場合には、低所得者割合が少し関連していました。

結論と本研究の意義

出身国によらず、1991年から2015年にかけて、スウェーデン農村部に住む男性の自殺率は都市部の自殺率よりも高かったことがわかりました。このような都市部と農村部の自殺率の違いには、自治体間の社会経済的条件の違いが関連していました。期間中、都市部でも農村部でも、おおむね自殺率は減少していましたが、小さな農村コミュニティに住む外国出身男性の自殺率が高まっていた時期があるなど、例外もありました。このことは、農村地域の社会環境が、外国出身者の自殺率に負の影響を与える可能性を示唆しています。

農村に住む移民の自殺に焦点を当てた研究は限られており、近年移民・難民が増加している中、世界に先駆けたエビデンスを提供しました。

お問い合わせ先:金森万里子(Department of Public Health Sciences, Stockholm University)mariko.kanamori [a] su.se

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