【論文出版】乳児死亡率の職業間格差が拡大傾向

論文

このたび、研究論文がJournal of Epidemiologyに掲載されました(2020年2月1日アクセプト版早期公開)。論文はオープンアクセスなのでどなたでも読むことができますが、日本語で概要を説明いたします。なお、本論文は2022年12月に掲載紙において1か月で最も閲覧数が高かった論文に選ばれました。

Kanamori M., Kondo N., Nakamura Y. (2021). Infant mortality rates for farming and unemployed households in the Japanese prefectures: An ecological time trend analysis, 1999-2017. J Epidemiol., 31: 43–51. https://doi.org/10.2188/jea.JE20190090


乳児死亡率の職業間格差が拡大傾向
農家世帯で2倍、無職の世帯で6.5倍

 近年日本の子どもの死亡率の都道府県間格差が拡大傾向であることが指摘されていますが、職業間の格差に着目した研究はほとんどありませんでした。このたび、政府公表のデータを用いて、世帯の主な仕事別の乳児死亡率を比較しました。その結果、1999から2017年の平均の乳児死亡率は、従事者数100人以上の企業などで働く世帯に比べて、農家世帯は約2倍、無職の世帯は6.5倍高かったことが明らかになりました。また、乳児死亡率の職業間格差は過去19年間で拡大していました。さらに、人口密度が低く農家の割合が高い都道府県では、職業別乳児死亡率の格差が小さい傾向がありました。世界的に見ても乳児死亡率が最も低い国の一つである日本において、乳児死亡率の職業間格差が大きくなっていることが明らかとなりました。職場や家庭環境、経済状況、医療機関の利用しやすさなどが背景にある可能性があります。さらなる調査を行って原因の解明に努めるとともに、妊婦や子どもを守る地域環境づくりを進めていく必要があると思われます。

背景

近年日本の子どもの死亡率の都道府県間格差が拡大傾向であることが指摘されています。しかし、職業間の格差に着目した研究は限られています。職業によって周産期の母子を支える仕組みは異なっており、例えば農家や自営業では、就労の特性上労働基準法等の適用が難しく、産休・育休などのサポートを得づらい状況にあります。そこで私たちは、世帯の主な仕事に着目し、乳児死亡率の傾向を分析しました。

対象と方法

【解析対象】
日本全国の都道府県

【方法】
人口動態調査より、都道府県別・世帯の主な仕事別の乳児死亡数・出生数のデータを用い、時系列データの階層構造を考慮したマルチレベル分析を行いました。1999年から2017年の過去19年間分のデータを用いました。格差指標を算出し、乳児死亡率の職業間格差が期間中どのように変化したか調べました。さらに、各都道府県の人口密度と農家割合のデータを用い、職業別乳児死亡率との関連を調べました。

【世帯の主な仕事】
出生時の世帯の最多所得者の仕事。以下の7種類に分類されたものを用いました。

  • 農家世帯:農業だけ又は農業とその他の仕事
  • 自営業世帯:自由業・商工業・サービス業等を個人で経営
  • 常用勤労者世帯(I):勤め先の従事者数が100人以下の企業・個人商店等(官公庁は除く)
  • 常用勤労者世帯(II):常用勤労者世帯(I)にあてはまらない常用勤労者世帯及び会社団体の役員
  • その他の世帯:上記にあてはまらないその他の仕事。日々または1年未満の契約の雇用者を含む。
  • 無職の世帯:仕事をしている者のいない世帯
  • 不詳

結果

世帯の主な仕事別にみた乳児死亡率は、常用勤労者世帯(II)、常用勤労者世帯(I)、自営業者世帯、農家世帯、その他の世帯、無職の世帯の順に、統計学的に有意に高かったことが分かりました(図1)。図中の数字は、乳児死亡率が最も低かった常用勤労者世帯(II)に比べ、何倍乳児死亡率が高かったかを示しています。

また、分析した1999から2017年の期間中、無職の世帯を含む世帯の職業間の乳児死亡率の格差は拡大傾向にありました(図2)。さらに、人口密度が低く農家の割合が高い都道府県では、職業別乳児死亡率の格差が小さい傾向がありました(図3)。

結論と本研究の意義

乳児死亡率の職業間格差があり、さらにその格差は拡大傾向であることが示唆されました。日本は世界の中でも子どもの死亡率が低い国ではありますが、それでも職業により格差がある可能性があります。格差の背景には、職業ごとの周産期の女性を取り巻く就労環境の違い(休息を十分取れないなど)や、就労状況に伴う経済状況の格差、医療機関の利用しやすさなどが関係している可能性があり、原因の解明のためにさらなる研究が必要です。また、妊婦や子どもを守る地域環境づくりを進めていく必要があると思われます。

お問い合わせ先:東京大学大学院医学系研究科 健康教育・社会学分野 近藤尚己 naoki-kondo [a] umin.ac.jp

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