研究内容

RESEARCH


発表した論文を新着順にご紹介しています。論文・学会発表等のリストは最後にあります。

地域のジェンダー規範が自殺やメンタルヘルスに与える影響について世界初の報告

このたび私たちは、「男/女のくせに、●●してはいけない/しなさい」といった、地域のジェンダー規範の認知が高齢者のメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすか検討しました。高齢者25,937名の一時点のデータを分析しました。その結果、住んでいる地域のジェンダー規範が保守的だと感じている男性では、1.9倍うつ症状を抱く人が多く、2.0倍自殺念慮(死にたい気持ち)を抱いており、2.2倍自殺未遂歴がありました。女性でも同様に、うつ症状が1.8倍、自殺念慮が2.1倍、自殺未遂歴が2.6倍多い結果でした。さらに、「外で働くのは男性の役割」「家を守るのは女性の役割」といった性役割にこだわる考えを持っていない人ほど、地域の保守的なジェンダー規範とメンタルヘルスの悪化が顕著に関連していました。地域社会において、男らしさや女らしさの多様性を認めない雰囲気を感じている人は、困ったときに助けを求めたくても求められず、その結果メンタルヘルスに悪影響を及ぼしている可能性があります。

過去25年間の農村度別・出身国別の自殺率の傾向:ストックホルム大学との共同研究

スウェーデンには海外から多くの移民を受け入れてきた歴史がありますが、近年では、中でも非ヨーロッパ諸国出身の難民の占める割合が顕著です。多くの移民を受け入れるにあたり、都市部に人口が集中しすぎないように、難民を農村へ分散する政策がとられてきました。こういった経緯を踏まえ、本研究は、移民の増加が都市ー農村の自殺率の格差に影響を与えてきたかに着目しました。スウェーデン全国民を含むレジストリーデータを分析して、都市-農村の自殺率格差が、1990年ー2015年においてどのように変化してきたかを見ました。

都市ー農村のうつの多さの違いと、ソーシャル・キャピタルとの関連を明らかに

「都市と農村のどちらでうつが多いのか?」という問いは、思った以上に複雑です。例えば、東京より北海道は農村的だと思いますが、北海道の中でも札幌市と別海町はまた異なります。別海町の中にも、まちの中心部と、中心部から離れた郊外があると思います。そこで私たちは、農村度を評価する地域単位に着目して、高齢者のうつと農村度の関連をみました。その結果、都市部に比べて農村部では1.2倍うつが多いけれど、まちの中心部まで時間のかかるところに住む人では1割うつが少ないことがわかりました。

地域の農家密度と農家のうつの関連を明らかに

農業は地域とつながりの多い仕事ですが、農業者人口は減少しています。数十年前には周囲に10軒以上農家があったけど、いまは自分たちだけ、といった農家さんの声も聞きました。そこで、住んでいる小学校区の農家の多さ(農家密度)によって、高齢者のうつの傾向が異なるか調べました。その結果、農業経験の長い方の中で、人口当たり農家数が少ない地域にお住まいの方では、1.05倍~1.42倍うつが多いことがわかりました。

出身国別の都市-農村の自殺率格差を明らかに
:ストックホルム大学との共同研究

スウェーデン全国民のデータを分析した結果、農村では都市に比べ男性の自殺率が高いことがわかりました。農村地域の住人の中でも、出身国によって自殺のリスクが異なっており、海外出身者は特に、都市・農村の自殺率格差が大きい傾向がみられました。
世界的に国際的な移民が増加しているなかで、福祉国家として有名なスウェーデンにおいても、移民がどのように社会に適応していくか、議論が巻き起こっています。国の移民政策や地域環境、移民に対する差別等により、移民は深刻な健康問題に苦しんでいる可能性があります。日本の農村でも海外出身者とともに生活する機会は増えており、共通の課題があると思います。

乳児死亡率に職業間格差があることを明らかに

酪農家女性から、妊娠中の酪農の仕事の大変さ、子育ての際の苦労について話を聞くなかで、子どもの健康を支える社会環境に、世帯の職業による格差があるのではと感じていました。政府公表データを分析して世帯の主な仕事別の乳児死亡率を比較したところ、大企業などで働く世帯に比べ、農家世帯は約2倍、無職の世帯は6.5倍高かったことが明らかになりました。またこの職業間格差の大きさは地域によって違いがありました。

酪農や畜産が盛んな地域で自殺率が高い傾向を明らかに

私が牛の獣医師として働いていたとき、自死で亡くなった方の話を聞く機会が多くありました。農家さん、従業員さん、人工授精士さん、農協の方、獣医師…様々な職業の方が地域の産業にかかわっていますが、何か共通の生きづらさに関連する要因があるのではと考え、研究を計画しました。単に自分の耳に入りやすいだけなのか、本当に自殺率が高いのか、データを用いて調べました。

論文・書籍

学位論文(医学博士、東京大学)

  • Mariko Kanamori. (2022). The impact of rural context on suicide mortality and its potential mechanisms: A Swedish registry based multilevel cohort study focusing on country of birth. (農村に住むことが自殺に与える影響とそのメカニズムの検討:出身国に着目したスウェーデンのレジストリ・データを用いた縦断研究) . Doctoral dissertation in Medicine. The University of Tokyo. Tokyo. 162 pages.
    Researchgateまたは東京大学レポジトリにてダウンロード可   日本語概要解説へ

国際学術誌(主なもの)

※特に記載なければ査読あり、オープンアクセス

国際学術誌(共著等)

  • Yukiko Uchida, Mariko Kanamori, Shintaro Fukushima, Kosuke Takemura. Interdependent culture and older adults’ well-being: Health and psychological happiness in Japanese communities. Current Opinion in Psychology. (2023)
    https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2023.101729
  • Yoko Matsuoka, Maho Haseda, Mariko Kanamori, Koryu Sato, Airi Amemiya, Toshiyuki Ojima, Daisuke Takagi, Masamichi Hanazato, Naoki Kondo. Does disaster-related relocation impact mental health via changes in group participation among older adults? Causal mediation analysis of a pre-post disaster study of the 2016 Kumamoto earthquake. BMC Public Health, 23, 1982 (2023). https://doi.org/10.1186/s12889-023-16877-0
  • Yuqi Chen, Kosuke Miyazono, Yayoi Otsuka, Mariko Kanamori, Aozora Yamashita, Nobuto Arashiki, Takehisa Matsumoto, Kensuke Takada, Kota Sato, Narla Mohandas, Mutsumi Inaba. (2023). Membrane skeleton hyperstability due to a novel alternatively spliced 4.1R can account for ellipsoidal camelid red cells with decreased deformability. Journal of Biological Chemistry, Volume 0, Issue 0, 102877. https://doi.org/10.1016/j.jbc.2023.102877
  • Andrew Stickley, Naoki Kondo, Yosuke Inoue, Mariko Kanamori, Shiho Kino, Yuki Arakawa, Martin McKee. (2022). Worry about crime and loneliness in nine countries of the former Soviet Union. SSM – Population Health, 101316. https://doi.org/10.1016/j.ssmph.2022.101316
  • Kota Ninomiya, Mariko Kanamori, Naomi Ikeda, Kazuaki Jindai, Yura K Ko, Kanako Otani, Yuki Furuse, Hiroki Akaba, Reiko Miyahara, Mayuko Saito, Hitoshi Oshitani. (2022). Integration of publicly available case-based data for real-time coronavirus disease 2019 risk assessment, Japan. Western Pacific Surveillance and Response, 13(1), 1–6. https://doi.org/10.5365/wpsar.2022.13.1.889
  • Koryu Sato, Airi Amemiya, Maho Haseda, Daisuke Takagi, Mariko Kanamori, Katsunori Kondo, Naoki Kondo. (2020). Post-disaster Changes in Social Capital and Mental Health: A Natural Experiment from the 2016 Kumamoto Earthquake. American Journal of Epidemiology, 189(9): 910–921. https://doi.org/10.1093/aje/kwaa041

国内学術誌

  • 西尾麻里沙, 長谷田真帆, 金森万里子, 荒川裕貴, 近藤尚己. (2022). ヘルスプロモーション施策における社会環境整備の視点:タイ・スウェーデン・イングランド・アメリカ・日本のナラティブレビュー. 日本公衆衛生雑誌, 69(5), 338–356.
    https://doi.org/10.11236/jph.21-105
  • 森田直美, 金森万里子, 能智正博, 近藤尚己. (2021). 日本の在住外国人における医療アクセスが困難な人の特徴とアクセス抑制因子および効果的な支援策に関する混合研究. 国際保健医療, 36(3): 107–121. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaih/36/3/36_107/_article/-char/ja/

書籍等

学会発表

    国際学会・ワークショップ等(記載なければ査読あり)

    • Mariko Kanamori. Community gender norms and mental health among older Japanese adults. The 12th International Society of Social Capital Research meeting at Menorca, Oral, 30 June 2023(※査読なし)
    • Mariko Kanamori. Care access barriers in sexual and gender minority care recipients and potential interventions. (Symposium: Gender disparities in long-term care and its modifiable factors). IAGG-AOR2023, Yokohama. 12 – 14 June 2023
    • Mariko Kanamori. Co-creation of individual and collective well-being: beyond one-size-fits-all well-being & beyond human centralization. The HiSS workshop. 3 – 5 May 2023. KTH Royal Institute of Technology. Invited Speaker.
    • Mariko Kanamori. Influence of human-animal relationship on public health ー Perspectives on social epidemiology research ー. The 3rd Workshop on “Food Life History of the North”. 30 September 2022. Research Institute for Humanity and Nature. Invited Speaker.
    • Mariko Kanamori, Naoki Kondo. Suicide and Types of Agriculture: A Time-Series Analysis in Japan. One Welfare Science slaM (OWSM) Sessions, One Welfare World Conference, online, 15 – 16 September 2021. (講演動画はこちら
    • Mariko Kanamori, Mayumi Oka, Kosuke Takemura, Yumiko Kobayashi, Katsunori Kondo, Naoki Kondo. Gender norms and mental health among older adults in Japan: A JAGES cross-sectional study. Society for Epidemiologic Research 2021 Meeting, San Diego (online), June 23 – 25, 2021  (詳細はこちら
    • Mariko Kanamori, Naoki Kondo, Sol Juarez, Andrea Dunlavy, Agneta Cederström, Mikael Rostila. Rural life and suicide: do immigrants suffer or benefit from their community contexts? A Swedish registry-based multilevel cohort study. Understanding Inequalities Conference 2020, Edinburgh, Oral, June 2020
    • Mariko Kanamori, Naoki Kondo, Sol Juarez, Andrea Dunlavy, Agneta Cederström, Mikael Rostila. The urban-rural inequalities of suicide according to country of birth: A national registry-based cohort study using a three-level model in Sweden. The 11th International Society of Social Capital Research meeting at Edinburgh, Oral, June 2019(※査読なし) (詳細はこちら

    国内学会等(記載なければ査読あり)

    • 金森万里子『狩猟における動物福祉:スウェーデンの狩猟文化から学んだこと』ヒトと動物の関係学会第30回学術大会シンポジウムにて招待講演、横浜・オンライン、2024年3月2日
    • 金森万里子『地域のジェンダー規範が高齢者の心の健康に及ぼす影響』、第18回日本応用老年学会大会シンポジウムにて招待講演、大阪・オンライン、2023年10月29日
    • 金森万里子『性的マイノリティにおけるLTCサービスへのアクセスの障壁と介入可能性』、日本社会関係学会公募シンポジウムにて口演、オンライン、2023年3月19日
    • Mariko Kanamori, Naoki Kondo, Sol Juarez, Andrea Dunlavy, Agneta Cederström, Mikael Rostila. “Rural life and suicide: does the effect of the community context vary by country of birth?”, 第33回日本疫学会学術総会、現地口演、講演8(英語)O-40, 2023年2月3日
    • 金森万里子『牛の健康から人の健康へ ―社会と健康の関係―』、令和3年度日本獣医師会獣医学術学会年次大会シンポジウムで招待講演、オンライン、2022年1月21日~2月6日 (詳細はこちら
    • 金森万里子、岡檀、竹村幸祐、小林由美子、近藤克則、近藤尚己『ジェンダー規範と精神的健康:日本老年学的評価研究2019年調査データを用いた横断研究』、第80回公衆衛生学会にて口頭発表、O-8-1-2、東京、2021年12月21日~23日
    • 金森万里子、花里真道、高木大資、近藤克則、尾島俊之、近藤尚己『都市/農村の抑うつの格差:市町村・小学校区の地区単位別の検討 JAGES』、第79回公衆衛生学会にて口頭発表、O-8-2-4、オンライン開催、2020年10月20日~22日 (詳細はこちら
    • 金森万里子、花里真道、近藤克則、近藤尚己 『地域で盛んな農業の種類と農家の抑うつとのクロスレベル交互作用の検討:JAGES横断データ』、第30回日本疫学会学術総会にてポスター発表、P-066、京都、2020年2月20日~22日  (詳細はこちら
    • 金森万里子、近藤尚己『農村地域の自殺に関係する地域要因の検討:地域で盛んな農業の種類に着目して JAGES』、第29回日本疫学会学術総会にてポスター発表、P-026、東京、2019年1月30日~2月1日
    • 金森万里子、近藤尚己、中村安秀『乳児死亡率の世帯の職業間格差 農業世帯に着目して』、第77回公衆衛生学会にて口頭発表、O-0803-4、福島、2018年10月26日
    • 金森万里子、近藤尚己『農業地域の自殺リスクに関する時系列地域相関研究:農業の種類(農作物・酪農畜産)別の検討』、第37回日本社会精神医学会(京都)にて口頭発表、O8-3京都、2018年3月2日

    進行中の研究プロジェクト

    『動物との関わりが地域社会に与える心理的影響:社会関係資本概念の応用による実証研究』(研究代表者)

    人と動物の関係性の再構築の重要性が高まる中、地域で実際に人々が経験している動物との関わりが、どのようにポジティブ/ネガティブに人のウェルビーイングや精神的健康に影響しているか明らかにする。人と人のつながりを資源ととらえる「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」に着目し、人と動物のつながりにおいて応用することを見据えた実証研究を行う。

    研究費:日本学術振興会 特別研究員奨励費(2022年4月―2025年7月)

    参画中の研究プロジェクト

    タイトルとURLをコピーしました