【論文出版】農村度とうつ、ソーシャル・キャピタル

論文

このたび、研究論文が国際学術雑誌 International Journal of Health Geographics に掲載されました。論文はオープンアクセスなのでどなたでも読むことができますが、英語なので、日本の方向けに、ここで概要を説明いたします。

Mariko Kanamori, Masamichi Hanazato, Daisuke Takagi, Katsunori Kondo, Toshiyuki Ojima, Airi Amemiya, Naoki Kondo. Differences in depressive symptoms by rurality in Japan: A cross-sectional multilevel study using different aggregation units of municipalities and neighborhoods (JAGES). International Journal of Health Geographics 20, 42, 2021. (Open Access)
https://doi.org/10.1186/s12942-021-00296-8


都市部に比べて農村部では1.2倍うつが多い
ただしまちの中心部まで時間のかかるところに
住む人では1割うつが少ない

~ソーシャル・キャピタルが都市—農村格差を縮める可能性~

 「都市と農村のどちらでうつが多いのか?」世界的にも研究結果は異なっており、一貫していません。私たちは農村度を評価する地域単位に着目して、高齢者のうつと農村度の関連をみました。その結果、農村部と都市部の市町村を比較した場合、農村部の市町村にお住まいの方では、男女ともにうつが1.2倍多いことがわかりました。農村部では趣味やスポーツ、ボランティアなどに参加していないことがうつの多いことと関係していました。一方、市町村でなく校区でみた時には、まちの中心部と比べると、中心部まで時間のかかる校区にお住まいの男性では1割うつが少ない傾向にありました。非市街地や中山間地域では、人々に対する信頼感や愛着、困ったときの助け合いがうつ予防に役立っている可能性が示唆されました。うつの多さは農村度を評価する地域単位によって異なっており、農村部の市町村では市民参加しやすい環境づくりが大切であることが示唆されました。

背景

 都市に住むか、農村に住むかで、メンタルヘルスに関係しうる様々な環境が異なります。例えば、人口密度が低い農村部の市町村では、税収や公共サービスの供給量や質、人的資源の豊富さが限られたり、住宅間の距離が大きくて公共交通機関の整備が難しいかもしれません。このような市町村の公共サービスの状況によって、社会参加のしやすさが異なるなど、住民のメンタルヘルスに悪影響がある可能性があります。さらに、一つの市町村の中にも様々な地域があります。日常生活に必要な施設や集会場などが集まっている町の中心部に位置する地域もあれば、中心部まで行くのに時間のかかる地域もあります。このように、市町村単位や市町村内の複数の地域単位というように、農村度を複数の地域単位で捉え、都市と農村のうつ症状の状況を調べた研究はありませんでした。

 そこで私たちは、高齢者のうつ症状の多さを、市町村どうし、また市町村より小さい校区(多くは小学校区)どうしでそれぞれ比較しました。さらに、地域間でうつ症状の違いが生じるメカニズムを探るために、ソーシャル・キャピタル(人々のつながり・絆)に着目しました。

対象と方法

 日本老年学的評価研究の2016年度調査に参加した、全国39市町村在住の65歳以上の高齢者144,822名を対象としました。農村度を評価するために、「市町村レベル」、市町村より小さい地域単位として「校区レベル」の2つの地域単位を用いました。市町村レベル農村度には各市町村の可住地人口密度を用い、校区レベル農村度には各区における人口集中地区までの所要時間を用いました。また、地域のソーシャル・キャピタルの豊かさを、以下の3つの側面からそれぞれ数値化しました。

  1. 市民参加:ボランティアやスポーツ、趣味などのグループ活動に月1回以上参加している人の割合
  2. 社会的凝集性:地域の人々を信用できる、助け合えると思う人や、地域に愛着がある人の割合
  3. 互酬性:悩みを聞いてくれる/聞いてあげる人がいる人や、病気の時に看病してくれる人がいる人の割合

 年齢を調節し、市町村、校区、個人ごとの回答のばらつきを考慮したマルチレベル分析を行いました。また追加分析として、個人の教育歴、世帯の所得、婚姻状況、独居であるかどうかを考慮した分析を行いました。

結果

 男女ともに人口密度の低い市町村ではうつ症状が多い傾向にありました(人口密度が最も高い市町村では男性16.4%・女性15.5%、最も低い市町村では男性17.9%・女性18.5%)。一方で、まちの中心部にある校区と、中心部まで時間のかかる校区では、うつ症状の多さに顕著な違いは見られませんでした。

 年齢や地域ごとのばらつきを調整した分析の結果を下の図に示しました。市町村レベルでは、人口密度の低い市町村に住む高齢者では、高い市町村に比べ、うつ症状が約1.2倍多いことが示されました。この関連は男女どちらにおいても見られました。人口密度の低い市町村における高いうつリスクは、これらの市町村において市民参加が乏しい傾向にあることによって説明されました。一方、市町村より小さい校区レベルでは、まちの中心部まで時間のかかる校区に住む男性では、中心部に比べて、約1割うつ症状が少ない結果でした。女性では有意な差は見られませんでした。中心部まで時間のかかる校区における男性のうつの少なさは、これらの校区において社会的凝集性や互酬性が高い傾向にあることによって説明されました。

  
 また、教育歴、世帯の所得、婚姻状況、独居であるかどうかといった個人の特性は、人口密度の低い市町村における高いうつリスクを部分的に説明しました。しかし、まちの中心部にある校区と、中心部まで時間のかかる校区とのうつ症状の違いは説明しませんでした。

結論

 農村度を評価する地域単位によって、農村度とうつの関連は異なることが示唆されました。人口密度の低い、農村部の市町村では、男女ともにうつリスクが高く、趣味やスポーツ、ボランティアなどのグループ活動に参加しづらい地域環境が関与している可能性があります。一方で、まちの中心部から時間のかかる、農村部のコミュニティでは、男性のうつリスクが低く、人々に対する信頼感や愛着、困ったときの助け合いがうつ予防に役立っている可能性があります。農村部の市町村において市民参加しやすい環境づくりが大切であると考えられます。

本研究の意義

 「農村」という複雑な社会環境とメンタルヘルスの関係を紐解くために、農村度を評価する地域単位ごとに農村度とうつの関連を評価した、世界初の研究です。都市と農村の社会環境の違いを考慮したうつ対策の重要性を提示しました。

謝辞

 本研究は、JSPS科研、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費などの助成を受けて実施しました。記して深謝します。

 本研究は日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを利用しました。JAGESに関わる全ての方に感謝いたします。JAGESのホームページはこちら:https://www.jages.net/

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